大阪府立産業技術総合研究所情報電子部信頼性・生活科学系包装・振動衝撃分野



40回全日本包装技術大会の要約(2002.12.6)

 

包装貨物内のがたの製品振動特性に及ぼす影響

−数値解析的検討−

 

津田和城,中嶋隆勝,斎藤勝彦**,寺岸義春,高田利夫

大阪府立産業技術総合研究所 情報電子部包装・振動衝撃分野

**神戸商船大学 商船学部附属船貨輸送研究施設

1.      はじめに

近年,社会の環境への意識はより一層高まり,家電/包装リサイクル法の施工により,環境対策を考慮したものづくりを行うことが,企業の責務となっている.なかでも,ものづくりには物流工程は必ず存在するため,その際に必要な包装への環境対策の重要性は高く,より一層環境に配慮した包装を実現しなければならない.

このような背景から,包装用緩衝材の材質も変更され,リサイクルの容易さから,プラスチック系から紙系に移行している.その結果,環境に配慮した包装を実現しているが,従来にはなかった新たな問題が発生している.この原因として,製品と緩衝材との間のがたが考えられているが,このがたが製品にどのような影響を与えているかはいまだに明らかにされていない.

そこで本研究では,がたが製品に与える影響を明らかにするために,がたと製品振動の関係を明らかにし,紙系緩衝材を使用する際の問題を解決するための知見を得ることを目的とする.今回は,加速度伝達率,製品の周波数特性や製品の共振に対してがたが与える影響について,数値実験により検討を行った.

以下では,今回の対象モデルや数値実験方法を簡単に説明した上で,数値実験結果のひとつであるがたが加速度伝達率に与える影響について説明を行う.

 

2.      包装貨物のモデル

上下に緩衝材が設けられた包装貨物を図1に示すようにギャップをもつ一自由度系にモデル化し,製品の振動解析を行う.ただし,ばねの一端は包装貨物に密着しているが,他端は製品に密着しておらず,支持するのみである.



 

3.       数値実験方法および結果

まず数値実験方法として,図1のyに正弦波の振動を入力し,出力xから製品の振動を把握している.具体的な入出力の一例として,図2に入出力の加速度の波形を示す.ただし,これは最大の入力加速度が1[G],入力周波数が5[Hz],がたが2[cm]の場合の数値実験結果である.図よりがたがある場合には,製品に加わる加速度は,正弦波ではなくピークをともなった波形となっている.

次に数値実験結果として,最大の入力加速度と加速度伝達率の関係を図3に示す.ただし,これは入力周波数が5[Hz]の場合の数値実験結果であり,加速度伝達率とは最大の出力加速度を最大の入力加速度で割った値である.図よりがたがない場合には,最大の入力加速度が変化しても,加速度伝達率は一定である.しかしがたが有る場合には,最大の入力加速度はある値を境に加速度伝達率は急激に大きくなり,以降,減少しながらも大きな値を維持している.またがたが大きくなるとともに,加速度伝達率の増加量も大きくなっている.

  

4.       おわりに

本研究で得られた主な結果を以下にまとめる.

(1)がたが存在する場合,入力加速度の最大値が,ある値(本結果では8.0m/s2(0.82G))を越えると,それまで1.4倍程度であった加速度伝達率が急激に10倍以上の値に跳ね上がることがわかった.

(2)がたの大きさと加速度伝達率の関係を比較すると,最大の入力加速度がある値より小さい場合には,がたが変化しても加速度伝達率はほぼ一定であるが,最大の入力加速度がある値より大きい場合には,がたが大きくなるとともに加速度伝達率は増加する傾向にある.

(3)入力周波数と加速度伝達率の関係を比較すると,最大の入力加速度がある値より大きい場合には,がたが大きくなるとともに共振周波数は低下し,最大の加速度伝達率は増加する.

 

最後に,包装貨物の振動試験において上記の結果(1)のような現象が現れると,その評価精度は著しく低下し,現実の輸送では破損しない製品が,振動試験では破損する事例や,逆に,振動試験では破損せず,現実の輸送で破損する事例が起こる.環境負荷が少ないとされる紙系緩衝材を安全に利用するためには,このがたと振動の問題を解明し,その対策を講じる必要があり,輸送を含めた製品品質を重視するすべての企業にとって,本現象は大きな問題である.今後,振動試験による評価精度の向上を目的とし,本現象の理論・数値解析および振動実験の両側面からの解明に取り組む予定である.

 

参考文献

[1]高松,紙系緩衝材の評価方法の確立,包装技術,4月号,(1996),336.

[2]谷口,振動工学ハンドブック,養賢堂,(1976),392.
[3]鈴木・青木・大山,サポートの非線形性を考慮した配管系の振動応答解析(第1報,サポートのがた特性の影響),日本機械学会論文集,53-490,C(1987),1141.
[4]早坂・岡本・服部ら,宇宙搭載機器のピン結合に起因する非線形振動挙動の解析(がたの応答に及ぼす影響),日本機械学会論文集,59-563,C(1993),41.
[5]中嶋・斎藤・久保ら,段積みされた製品の非線形モデルによる衝撃強さの検討,日本包装技術学会誌,Vol.9,No.1,(2000).

本研究に関するご意見・ご質問などございましたら,当所の技術支援センター(0725-51-2525)経由で,津田までご連絡ください.