所報 No.13
 
 平成11年度大阪府立産業技術総合研究所報告(所報No.13)には、技術報告(特集 高付加価値化生産技術)4編、技術論文8編、他誌掲載論文等概要49件および口頭発表概要256件を掲載しています。
 
【技術報告】
      超精密機械加工技術の現状と光学部品の加工事例
 
                        村田一夫 山口勝己 足立和俊
                        本田索郎        
 
 近年,電子機器,情報機器,精密機器関連の先端産業で脚光を浴びている超精密機械加工技術は,極めて高精度で高剛性の加工機と極めて切れ味の良いダイヤモンド工具を用いて,ナノメートルオーダの正確な形状および滑らかな表面を切削や研削により創成する技術で,高付加価値を与え得るものの一つである.当所では平成8年に国内最高レベルの超精密加工機を導入し,中核的研究『高機能部品の超精密加工と評価技術の開発』の中で,光学レンズ,ミラーやレンズ成型金型を対象として,ナノメートルオーダ加工精度を得るための諸技術の開発に取り組んできた.本報告では,この研究を通じて得た経験をもとに,超精密加工を達成するための条件という観点から,加工機,工具,材料,加工環境などについて概説している.さらに,導入した超精密加工機,高精度3次元形状測定機,非接触表面粗さ計を用いて,光学部品を対象に軸対称非球面,3次元自由曲面形状の超精密切削・研削およびそれらの加工面計測を行った例を紹介している.
           燃焼技術分野における酸素利用
    −酸素富化燃焼によるセラミックス焼成炉の迅速焼成化−
 
                        入江年優 表原靖男 竹内信行
                        渡辺博則 清飛羅一真 小川悦郎
                        津河成和 中塚 勉
 
 199712月の京都におけるCOP3では,日本の温室効果ガス削減値は1990年比6%減という厳しい目標が課せられている.このような状況下で大量の燃料を消費する高温工業界では,高温火炎が容易に得られ,しかも燃焼排ガス量が1/41/5となり,CO2NOx排出量が削減できる等の利点を有する酸素燃焼が有効となる.
 そこで,この酸素燃焼に関する特徴,酸素利用に関する現状を解説すると共に,酸素富化燃焼について実験,検討を行った.すなわち,実験検討にはセラミック焼成炉の実炉を使用し,酸素富化燃焼実験および熱精算による省エネルギ−効果等の検討を行った結果について解説した.
 
         アルミナ系セラミックスの作製と応用
 
                        宮本大樹 西川義人 久米秀樹
                        宮本 敬 稲村 偉 
                        S.D.De la Torre
 
 Al2O3-SiC系セラミックスはホットプレス焼結によって高強度化が達成されていたが,常圧焼結とHIP処理によっても強度の向上が可能であった.共沈法により,Al2O3-ZrO2系準安定固溶体超微粒子をコーティングした複合アルミナ粉末を作製した.この粉末は常圧,大気雰囲気中で緻密化が可能であった.通常のアルミナの曲げ強度が300MPaであるのに対し,Al2O3-ZrO2系では,常圧焼結で850MPa,HIP処理により1.2GPaまで強度を向上させることが出来た.シミュレーション解析の結果,強度の向上
は粒界結合力の向上による内在亀裂のサイズの減少によっていることが示された.また、高い疲労寿命を持っており,ベアリング材料として優れていることがわかった.
  
     クロム代替めっきとクローズドプロセス開発の試み
 
                        横井昌幸 中出卓男 佐藤幸弘
                        森河 務 
 
 クロムめっきは,耐食性,耐磨耗性,保油性など極めて優れた特長を持ち,幅広く用いられているが,6価クロムの発ガン性を指摘され,代替技術開発が進められている.クロム代替めっきの動向を概略述べるとともに,当所で行っている電気Ni-P合金めっきとNi-W合金めっきの無廃浴化の試み,これらニッケル系合金めっきの耐食性および3価クロムめっき浴からのCr-P-C合金めっきについてその特長を紹介する.特にめっきプロセスへのイオン交換膜の導入によりめっき浴の長寿命化,従来法では不可能なめっき膜形成が可能になること,ニッケル系合金めっきはクロムめっきと比較し孔食腐食を起こし易いこと,3価クロムめっき浴からの合金めっきは従来法によるクロムめっきを凌駕する耐食性能を持つことを述べる.
 
 【技術論文】 
 
    大出力炭酸ガスレーザによるアルミナセラミックスの溶接
 
                             野口修一 阿部信行
 
 87%Al2O3セラミックスのレーザ溶接における溶込み特性,溶接パラメータがポロシティならびに溶接継手強度に与える影響について検討し,以下のことが明らかになった.溶接速6.7 mm/sにおいてレーザパワー10 kWで最大溶込み深さ20mmが得られた.ポロシティの発生は,同軸ガスノズルを用いることにより少なくなり,またレーザによる溶接入熱量を小さくするほどその発生率は小さくなった.なお,同じ入熱量でも溶接速度が遅いほどポロシティの発生率は小さくなる傾向がみられた.表曲げおよび裏曲げによる強度試験で溶接部の強度評価を行った結果,溶接欠陥特にビード中央部に生じる引け巣状の大きなポロシティの発生の有無が,溶接継手強度に大きく影響し,87%Al2O3セラミックスをレーザによる溶融溶接を行っても,適正な溶接条件を選べば,母材の強度と同程度の強度が得られることがわかった.
 
 CO-H2-N2系雰囲気におけるガス浸炭のガス組成調整による迅速化
 
                       横山雄二郎 石神逸男 浦谷文博
 
 浸炭は自動車をはじめとする各種産業機械の動力伝達部品,例えば歯車やシャフトなどに対する表面硬化法として多用されている.したがって品質保証が最優先されるあまり,省エネルギー・省資源はどちらかと言えば二次的な問題として取り残される傾向にあった.しかし,最近の地球環境保護の観点から上記課題に対処することが急務となっている.本研究は処理の迅速化を図ることでその目的を達成しようとするものである.
まず,ガス浸炭挙動を忠実に表す解析モデルとして雰囲気組成をも包括したモデルを考案した.次に,RXガスを用いた現用生産炉で浸炭処理した鋼中の炭素濃度分布についてモデルの精度を検証したところ,本モデルは既存のモデルより精度よく解析できるうえ,雰囲気変動にも対応できることがわかった.さらに, RXガスの主成分であるCO,H2,N2の組成比を広範囲に変化させたときの炭素流速度を測定し,迅速化を図りうる組成を見出した.
           
      グロー放電発光分析法による多層皮膜厚の決定と
          Ti/TiN多層皮膜の厚さ測定への応用
 
                        浦谷文博 上田順弘 石神逸男
                             
 近年,高機能金属製品の開発にともない,表面に被覆する皮膜も多層化が進められている.これまで皮膜の膜厚は,蛍光X線分析,表面あらさ計,レーザ顕微鏡,走査電子顕微鏡(SEM)などを用いた方法により測定されている.
 しかし,これらの方法は,多層皮膜の各層の膜厚測定が困難であったり,SEMのように正確ではあるが多大な労力やかなりの熟練を要するものである.
 そこで,表面から深さ方向の分析速度が速いグロー放電発光分析(GDS)法に注目して多層膜の迅速評価への適用性について検討した.その結果,膜厚測定についてはSEMに匹敵する精度で迅速(5〜7分)かつ簡単に測定でき,多層膜を作製するときの膜厚管理に極めて有効な手段であることがわかった.
 
     ネットワークシステムとデータベースの設計(第4報)          −めっき加工業におけるパソコンネットワーク型
      生産管理システムの開発−  
 
                        竹田裕紀 君田隆男 北條一朗
 
 パソコンをサーバとし,パソコン端末10台を設置しためっき加工業でのネットワーク型生産管理システムの開発事例を報告する.本システムは,めっき加工製品に多くの類似品があるため,画像をすべての端末に表示して現場で確認するとか,めっき加工の短時間処理に適した伝票処理のスピード化を図るとか,得意先からの製品出来上がり状況の確認などが容易にできる.また,本システムは,Windows98上で稼働するデータベースソフトAccess97(Microsoft社製)で開発し,データベース上の蓄積されたデータを表計算ソフトExcel(Microsoft社製)を用いて自由に利用できるようにして,適時必要な帳票や一覧表を作成できる.
 
         銅合金鋳物溶解炉の省エネルギー対策
    
                        東 忠宏 根津 修 片桐真子
 
 銅合金鋳物溶解用オープン燃焼式るつぼ炉において,炉上部出口径と熱効率の関係について研究した.出口径を2分の1に絞ると絞る前に比べてエネルギー消費量は11%小さくなり,溶解時間が短くなり,工場内の酷暑状況が和らぐことが明らかになった.また,溶湯上面の燃焼雰囲気の相違が鋳物の品質に対してどのような影響があるかを溶湯材料の品質検査により研究し,実験条件の範囲内で鋳造品質に問題のないことを明らかにした.同時に省エネルギー対策前後の炉上部の火炎の大きさをビデオ映像から比較した.
 
      写真フィルムリサイクルに適した耐熱性酵素の開発
 
                             増井昭彦 藤原信明
 
 写真フィルムのリサイクルのために,無公害技術である酵素を利用したバイオリアクターにより,銀とPETを連続的に分別回収するシステムを構築した.さらに酵素を高温で利用できれば,システムの工業的有用性を高めることができるが,一般に酵素は熱に弱く,本処理システムでも,反応温度は40℃ぐらいが適当であった.そこで,耐熱性に優れた酵素を開発するために,タンパク質工学的手法による本酵素の耐熱化を試みた.酵素のβ-タ−ンに位置すると考えられる3ヶ所のアラニンをそれぞれプロリンに置換した.55℃に30分保持した変異酵素の熱安定性は,5363%と野生型酵素の残存活性(31%)よりも3変異酵素共に高い値を示しており,熱安定性が向上していることがわかった.また,これらの変異酵素の比活性も,野生型酵素の110115%と高い値を示した.これらの結果より,酵素のβ-ターン構造へのプロリンの導入により,酵素を耐熱化させることができた.
 
     カチオン化剤処理綿布の天然染料染色における濃染
 
                                  野澤繁夫
 
 木綿を素材として,媒染染色タイプの植物染料による染色と主としてセルロース系繊維のカチオン化改質に用いるカチオン化剤による濃染化前処理との併用について,その実践性を調べた.白綿布を同上のカチオン化剤で処理し,数種の一般的な金属塩媒染剤を用いた後媒染法で玉葱(たまねぎ)外皮による媒染染色を行った.玉葱外皮は,身近な廃物利用の染材として,古来欧州で使われ,比較的容易かつ安価にある程度の分量を入手でき,保存性にも優れ,その熱水抽出物の主色素種は,フラボノール類に属するケルセチンである.今回,その被染物の色彩性を検討すると共に,各種染色堅牢度を試験した.同時に,カチオン化剤未処理の場合との比較も行った.その結果,綿布の玉葱媒染染色において,カチオン化剤前処理による有効な濃染が得られた.染色堅牢度は,カチオン化剤処理の影響はあまり明白ではないが,低めの合格水準の下では,媒染剤の種類によって及第の成績が得られるものもあった. 
 
         カーペットの外観変化に関する研究
        −ファイバーバインド試験方法の検討−
 
                         木村裕和 小河 宏 呼子嘉博
                        信田尚孝
 
 カーペットの外観変化を引き起こす要因には,パイル形状の変化,摩耗痕,ファズ,遊び毛,シェーディング,汚れの付着,変退色などが挙げられる.なかでもファイバーバインドと密接に関連して発現するループパイルカーペットのファズやカットパイルカーペットの遊び毛,毛抜けなどは外観や風合いを急激に低下させるものである.しかし,ファイバーバインドに起因する諸現象を正確に再現でき,評価できる試験方法は今のところ確立されていない.そこで,著者らはJISに規定されている毛羽立ち試験機の性能について詳細に検討し,ループパイル試料に対する有為性を確認した.本稿では,カットパイルカーペットの遊び毛や毛抜けの評価に対する適用性について検討を加えた.その結果,JIS型試験機はカットパイルカーペットの遊び毛や毛抜けの状態を適切に再現でき,実用的な性能との比較から質量減少による評価が適当であるなどの知見が得られた.