平成19年度
大阪府立産業技術総合研究所報告(No.21)
  

 平成19年度大阪府立産業技術総合研究所報告(No.21)を発行いたしました。本号では、技術報告5編、技術論文8編、他誌掲載論文等概要80件、口頭発表概要189件および出願特許12件を掲載しています。

 このページでは、技術報告、技術論文の一覧とその概要を掲載しております。
 また技術報告、技術論文は全文をpdfファイルでご覧いただけます。




≪テーマ一覧≫
【技術報告】
速度論的解析モデルに基づいたガス浸炭の制御法の提案 石神逸男・水越朋之・横山雄二郎・星野英光・三浦健一・浦谷文博

新規合成法によるポリイミド微粒子の調製

舘 秀樹
ギガビットネットワークを中心とした所内LANの再構築 平松初珠・石島 悌・中辻秀和
高分子製品中の有害物質のスクリーニング 浅澤英夫・塚本崇紘
輸送包装の標準化と3R 寺岸義春
【技術論文】
電子サイクロトロン共鳴プラズマを用いたスズ添加酸化インジウム薄膜の表面改質 筧 芳治・佐藤和郎・北畠顕英・小川倉一・中島嘉之・中野信夫
超精密加工機における位置決めの高精度化
−環境補正装置によるレーザ測長誤差低減−
足立和俊・山口勝己・本田索郎
スクラッチ試験と180度曲げ試験によるDLC膜の密着性評価法の検討 中村守正・三浦健一・松岡 敬・平山朋子
インテリジェントな徐放性システムを利用した新しい殺菌方法の開発
−切削油から分離したP. aeruginosaのプロテアーゼの精製とその性質−
増井昭彦・藤原信明・Ivanka Karadzic
高密着力Ti-Al溶射皮膜の開発 足立振一郎
5軸摩擦攪拌接合装置の開発(第2報) 大川裕蔵・谷口正志・杉井春夫・丸谷洋二
線状高分子混合処理土における靱性向上メカニズムの検討 西村正樹・赤井智幸・嘉門雅史
酸化鉄を用いる環境中有機化合物分解法の開発 林 寛一・中島陽一・太田清久



技術報告及び技術論文概要

【技術報告】

速度論的解析モデルに基づいたガス浸炭の制御法の提案
石神逸男 水越朋之 横山雄二郎
星野英光 三浦健一 浦谷文博
  
 現在のガス浸炭は,鋼を一定のカーボン・ポテンシャル(CP)を有した雰囲気ガス中で加熱することによって行われている.この方式では炉内への酸素混入を防止するため,炉内圧を大気圧よりも若干高めに設定し,ガスブリーダーや材料の挿入・排出扉から雰囲気ガスを燃焼排出させている.そのため大量のエネルギーとガス資源を消費するばかりでなく,CO2排出による大気汚染の一因ともなっている.本稿では,CP制御の理論背景を簡単に説明した後,現在のガス浸炭法の問題点とCP制御に基づくかぎりそれらの解決策は限界にあることの根拠を示す.そのうえで,ガス浸炭の新しい制御法に向けて,複数の浸炭反応を考慮した速度論的解析モデルを構築したことと,その精度の検証結果について述べる.さらに,CP制御法では困難であった雰囲気変動下での制御も可能なことの例示を行うとともに,本モデルが新しい熱処理線図の考案や,新しい浸炭熱処理法を開発する際の有力な支援手段になりうることを述べる.
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新規合成法によるポリイミド微粒子の調製
舘 秀樹
  
 ポリイミドは耐熱性,電気絶縁性,耐薬品性に非常に優れ,航空宇宙産業用材料からプリント基板,レジスト材料に至るまでその特性を生かし様々な分野で用いられている.そのほとんどがバルク,ワニス,フィルムで用いられておりポリイミド微粒子,特にサブミクロン以下のナノスケールの微粒子に関する報告はほとんど無い.一般的にポリイミド合成法として酸無水物とジアミンを用いた方法がよく用いられる.一方で酸無水物とジイソシアネートを用いた反応は,触媒存在下,比較的低温で七員環中間体を経由して,イミド環を与えるため,アミド酸中間体を経由しないポリイミドの合成が可能である.本研究では酸無水物とジイソシアネートの反応を用いた新しいポリイミド微粒子の合成法を開発した.また,反応条件により多孔性ポリイミド微粒子の合成にも成功した.イソシアネート法によるポリイミド微粒子調製を行い,その反応条件について検討した結果について報告する.
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ギガビットネットワークを中心とした所内LANの再構築

平松初珠 石島 悌 中辻秀和

  
 当研究所では,1996年の移転時に100 MbpsのFDDIを核とした所内LANを導入した.しかし,ネットワークの利用の変化や機器のメンテナンスなどの点で,さまざまな問題が顕在化してきたため,ネットワークを再構築した.今回は,レイヤー3スイッチとレイヤー2スイッチをツリー型に配置したギガビットネットワークを構築した.末端へは,レイヤー2スイッチを経由し,既存の2対4芯のUTPケーブルを通って100 Mbps,もしくは10 Mbpsで接続される.ネットワークの移行は,古いネットワークと新しいネットワークを共存させ,段階的に置き換える方法で行った.また,近い将来普及すると言われているIPv6の対応や,末端の2対4芯のUTPケーブルを2本用いてギガビット通信の試みを行った.さらに,ネットワークの性能評価を行い,予想通り再構築したネットワークが高速化されていることを検証した.本稿では,再構築に到る過程とネットワークの移行を中心に上記について報告する.
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高分子製品中の有害物質のスクリーニング
浅澤英夫 塚本崇紘
  
 近年,EUでの環境負荷物質規制(RoHS, WEEE, ELV)の影響により,これらの管理の重要性が認識され,有害金属分析の要望が高まってきている.有害金属の定量には,原子吸光分析や高周波プラズマ発光(ICP)分析が高感度の分析として知られているが,煩雑な前処理のための時間と熟練が必要である.しかし,高分子中の有害金属の定量を迅速に行いたいとの多くの要望に対しては,これらの分析方法では応えられない.そこで,現在,簡易にスクリーニングできることで注目されているのが蛍光X線分析法である.これは,試料の前処理をほとんど行う必要がなく,簡便かつ迅速に簡易定性定量を行うことができるため,当研究所においても,この機器による依頼試験および機器貸与が急増している.当系の保有する機器でも一般的には,機器付属の簡易定性定量分析ソフトで標準試料を使用せずに分析することが多い.しかし,より適切な環境負荷物質規制対応のスクリーニングを行うには,標準試料による検出限界,精度,正確さの検定が必要である.市販の標準試料はあるが,高価であり,濃度範囲が限定されることが問題である.そこで本研究では高分子に有害金属(Pb, Cd, Cr, Hg)を含む標準試料を作製し,これらの課題に対処することを目的とし,検討を行った.
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輸送包装の標準化と3R

寺岸義春

  

我国で経済復興と産業発展のツールのひとつとして,輸送包装の「標準化」が叫ばれ,輸送機関や製品出荷企業,包装材企業で「標準化」の取組みが始まったのは1960年初頭である.以来,ほぼ50年経過し輸送包装の「標準化」も包装材料,容器,輸送機器から評価試験までJIS化が進み,現在では生産のグローバル化に伴い,国際標準化(ISO)まで進展してきた.一方,昨年@容器包装リサイクル法と,環境負荷低減のためにA省エネ法が改正され,@では3R (Reduce―廃棄物の発生抑制,Reuse―再使用,Recycle―再資源化)の推進,Aでは大手の出荷企業と輸送企業に排出するCO2を毎年1 %削減する義務が課された.これを受けて輸送包装の現場では,両法律を履行するため,これまで以上に標準化による輸送効率の向上と3Rを推進しなければならない状況になっている.ここでは,当所で実施している輸送包装の評価試験等でできる3Rや,現状の輸送包装の標準化について考察し,これからの輸送包装のあり方について紹介する.

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【技術論文】

電子サイクロトロン共鳴プラズマを用いた
スズ添加酸化インジウム薄膜の表面改質

筧 芳治 佐藤和郎 北畠顕英
小川倉一 中島嘉之 中野信夫

  
 次世代ディスプレイとして期待されている有機電界発光(有機EL)素子を利用したディスプレイは,電極層,キャリア輸送層,発光層など機能分離された層によるサンドウィッチ構造で構成されており,陽極よりホールが,陰極より電子が抵抗率の高い有機層(発光層)に注入され,再結合により発光するキャリア注入型素子である.従って,抵抗率の高い有機層への高密度のキャリア注入は,有機EL素子にとって非常に重要な問題であり,キャリア注入に重要な役割を果たしている電極材料は,素子の発光特性や寿命などへ与える影響が極めて大きいと考えられている.そこで今回,一般に陽極に使用されている錫添加酸化インジウム(ITO)薄膜に対して,電子サイクロトロン共鳴(Electron Cyclotron Resonance: ECR)プラズマ中で生成されたイオン・ラジカルを照射し,陽極材料として重要な特性である仕事関数の増加および表面平坦生の向上を試みた.その結果,マイナス側の基板バイアス電圧を印加することにより,ITO薄膜表面の仕事関数および平坦性を同時に大きく改善できることを見出したので報告する.
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超精密加工機における位置決めの高精度化
−環境補正装置によるレーザ測長誤差低減−
足立和俊 山口勝己 本田索郎
  
 複雑・微細形状等の超精密加工は,非常に長い加工時間を要し,加工中の環境変化が加工精度に大きく影響を及ぼす.特に,レーザ干渉測長器を位置決め機構に利用する超精密加工機を用いた場合,温・湿度が管理された環境下では,加工機の熱変形よりも気圧の変化にともなうレーザ測長誤差が,直接仕上げ面に転写され,加工対象の形状精度を決定する主な要因となっている.本研究では,逐次変化する気圧・温度・湿度を計測してその影響を反映させる環境補正装置を試作し,超精密加工機の位置計測系に導入した.一方で,より正確な補正のためには,干渉系における光路差ゼロの位置と加工機の原点位置の間(いわゆるデッドパス)の長さに関する補正が必要であり,デッドパス長さの推定を実験で行うとともに,その長さを用いてより高精度な補正を実施した.試作した装置の有効性は,軸停止時における工具-工作物間の相対変位測定及びモデル加工実験により評価した.その結果,補正を行わなかった場合と比較して,加工機位置決め精度が著しく改善され,加工精度を向上できることを実証した.
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スクラッチ試験と180度曲げ試験によるDLC膜の密着性評価法の検討
中村守正 三浦健一 松岡 敬 平山朋子
  
 DLC(Diamondlike Carbon)膜は,低摩擦性と耐摩耗性を兼ね備えた皮膜として広く注目されており,実用化研究が進められている.そのようなDLC膜の密着性評価には,スクラッチ試験が多用されているが,スクラッチ試験の結果には皮膜の硬さなど密着性以外の膜特性が含まれていることから,密着性のみを評価する方法を確立する必要がある.本論文では,スクラッチ試験の結果から皮膜の密着エネルギーを算出するBullらのモデル式を基に,皮膜の残留応力を考慮した新たなモデル式を考案し,これをUBMS(UnBalanced Magnetron Sputtering)法で形成したDLC膜に適用することにより,密着性評価法としての妥当性を検証した.検証は,別に考案した180度曲げ試験によるモデル式から密着エネルギー比例変数を算出し,比較することで行った.その結果,両者から推測される密着性の変化は,被覆条件に対して極めてよく一致した.全く異なる外力によりはく離させたにもかかわらず密着性の変化がよく一致したことから,両モデル式を用いてDLC膜の密着性評価が可能であることが確認できた.
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インテリジェントな徐放性システムを利用した新しい殺菌方法の開発
−切削油から分離したP. aeruginosaのプロテアーゼの精製とその性質−

増井昭彦 藤原信明 Ivanka Karadzic

  
 著者らは,水溶性切削油の腐敗防止と殺菌剤使用量の削減のため,殺菌剤・酵素をゼラチンに固定化させ,腐敗菌(Pseudomonas aeruginosa)が分泌するプロテアーゼにより,殺菌剤・酵素が放出されるインテリジェントな殺菌システムを提案している.本システムにおいて,ゼラチンの分解と薬剤の放出は,プロテアーゼの作用によって制御されている.そのため,本システムを確立するには,このプロテアーゼの性質を明らかにする必要があり,酵素を精製し,その特性を調べた.その結果,本酵素は分子量約19 kDa,至適温度は60 ℃,至適pHは9.0であり,pH 6以上で安定であった.さらに本酵素は,メタノール,エタノール,N,N-ジメチルホルムアミドなどの有機溶媒存在下で安定であった.
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高密着力Ti-Al溶射皮膜の開発
足立振一郎
  
 TiとAlは金属の中では比較的安全性が高いとされており,またアルミナセラミックスとの親和性が高い.そこで,Ti粉末とAl粉末の混合粉末をプラズマ溶射して得られるTi-Al皮膜はアルミナ溶射皮膜の下地溶射皮膜として適用が期待される.本報告では,鉄鋼基材に溶射したTi-Al皮膜の組織および反応相をSEMおよびX線回折により調べた.また,Ti粉末とAl粉末の配合比率,プラズマトーチへの投入電力などの溶射条件,および基材の表面粗さが密着力に及ぼす影響を検討した.その結果,Ti-Al皮膜は主にTiNO.3,Ti(N,O)およびAlで構成されており,皮膜の構造はTi化合物相とAl相がラメラー組織を形成して亀裂など欠陥の少ない緻密なことを確認した.また,密着力は溶射条件に影響され,Ti化合物相の酸化および窒化の度合いと相関関係が認められた.Ti-Al皮膜と鉄鋼基材の界面における密着機構は基材表面粗さによるアンカー効果およびAl相の金属結合の相乗効果によることが推察された.これらにより,鉄鋼基材に対して高い密着力を有するTi-Al皮膜を製作することが可能になった.
  詳細はこちらから<PDF:548KB>
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5軸摩擦攪拌接合装置の開発(第2報)

大川裕蔵 谷口正志 杉井春夫 丸谷洋二

  
 摩擦攪拌接合(以下 FSW [Friction Stir Welding]と略す.)は金属を溶融させることなく塑性流動によって固相で接合する技術で,材質劣化が少なく継手効率も高い接合方法として注目を浴びている.この技術がAl合金,Mg合金などに応用されるのは接合部での結晶粒の粗大化が抑えられ,結果として接合部の機械的強度が非接合部に比べ,劣化しない特徴を有しているためである.しかし実用されている分野は直線接合だけであり,曲線や曲面上での接合はほとんど行われていなかった.その大きな理由は回転ツールの位置と姿勢を制御するソフトウェア,ハードウェアの開発が遅れていることにある.筆者らは平成16年度より開始したプロジェクト,都市エリア産官学連携促進事業(大阪東部エリア)『次世代の高品位接合技術の開発』において,研究テーマの一つとして,FSW による3次元形状の部材接合の自動化について取り組んできた.この研究を進めるにあたり5軸のFSW装置を開発・試作し,それを用いてAl板の3次元曲面接合を実施したので報告する.
  詳細はこちらから<PDF:458KB>
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線状高分子混合処理土における靱性向上メカニズムの検討
西村正樹 赤井智幸 嘉門雅史
  
 近年の環境意識の高揚を背景に,より安全で信頼性ある廃棄物最終処分場の設計,建設が求められており,わが国でも遮水構造や維持管理に対する基準が強化,明確化されてきている.また,陸上処分場建設が益々困難になる中,大規模でスケールメリットを活かせる海面処分場が,大都市圏を中心に今後主流になっていくと考えられる.しかし,海面処分場は地盤条件や施工条件が陸上とは異なり,陸上処分場に比べて考慮すべき課題が多い.さらに,海面処分場の遮水構造には,圧密沈下や地震に起因する大変形に対しても遮水性能を維持できることが求められる.筆者らはこれまで,主に海面処分場への適用を目指し,地盤変形追随性(靱性)と遮水性能を併せ持つ土質系遮水材料として,粘性土に固化材と線状高分子材料(短繊維)を混合した線状高分子混合処理土(HCB; Hybrid Clay Barrier)を開発してきた.ここでは,HCBにおける靱性向上メカニズムについての検討結果を報告する.
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酸化鉄を用いる環境中有機化合物分解法の開発
林 寛一 中島陽一 太田清久
  
 環境意識の高まりからシックハウス症候群など人体に影響を及ぼす揮発性有機化合物(VOC)や農薬など環境中有害有機化合物の無害化が叫ばれて久しい.現在無害化法として大気中VOCについては,活性炭フィルター法や燃焼触媒法と呼ばれる手法が知られている.また,環境中有機化合物の分解にはオゾンを用いる方法や光触媒を利用することにより処理の高効率化を図った研究も盛んに行われている.しかしながら,これらの方法は安全性・煩雑な作業・高維持費などといった改善すべき問題も多くある.これまで我々は,「持続可能な社会」を目指し,安全・安心な環境技術の開発を行うため,鉄を用いる水溶液中有機化合物の酸化分解処理法に関する研究を行ってきた.鉄は地球上に比較的豊富にある元素である.また工業的には産業廃棄物として再資源化等の必要性に関する問題もある.そこで,本稿では有効な鉄再利用法も視野に入れ,鉄サビのひとつであるV価鉄種を用いた環境中有機化合物分解検討を行い,得られた結果および推定される反応の詳細について報告する.
  詳細はこちらから<PDF:249KB>
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