■ 2009年4月~2010年3月の研究会実施記録 

バイオ関連セラミックス分科会第25回研究会
「新しいポリマー技術を利用したマテリアルの表面改質および設計」
 既存のバイオマテリアルの特性をさらに向上させたり、これまでにない性質や機能をもった新しいバイオマテリアルを創製するためには、マテリアル自身の物性を制御する技術だけでなく、マテリアルと生体の界面を精密に制御する技術がきわめて重要です。これまでに実用化されたバイオマテリアルについても、マテリアルと生体の界面を制御することの重要性はしばしば指摘されてきましたが、近年の表面改質および設計技術の著しい発展によって、いわゆる「バイオナノインターフェイス」という新しい研究領域が開拓されつつあります。今回の研究会では、新しいポリマー技術を駆使したマテリアルの表面改質および設計について精力的に研究を展開されているお二人の先生から、最新の研究成果をご紹介頂きます。

日時:2009年(平成21年)4月17日(金)14:00~17:00
場所:大阪府商工会館 6階 601号室
(〒541-0054 大阪市中央区南本町4-3-6)
(1)リン脂質ポリマーバイオマテリアルの創製と産業化 -日本発のバイオマテリアルを世界に向けて展開する-
東京大学大学院 工学系研究科
石原 一彦 氏
 細胞膜機能を超えるマテリアルの設計、機能評価を通して新しいリン脂質ポリマーバイオマテリアル創製と産業化を行ってきている。これは、人工細胞膜構造体を医療デバイスの表面に構築し、生体親和性、抗血栓性などを獲得しようとするものである。マテリアル創製の観点からは、機械的な強度、安定性、加工性あるいは広範囲な器材への適用性なども考慮されるべきであり、そこでポリマーに注目した。マテリアル設計とそのバイオデバイスとしての機能について解説する。

(2)リビングラジカル重合による精密表面設計
京都大学 化学研究所
辻井 敬亘 氏
 リビングラジカル(LRP)法を表面グラフト重合に適用することにより、長さの揃った高分子を飛躍的に高い密度で材料表面にグラフトすることに成功し、いわゆる“濃厚ポリマーブラシ”系を実現した。本講演では、新しい表面改質・設計という観点から、濃厚ポリマーブラシが発現する、従来のブラシ表面とはまったく異なる独自で斬新な性質について紹介する。



第186回研究会

(センシング技術応用研究会との合同開催)

日時:2009年(平成21年)5月8日(金)13:00~16:45
場所:大阪市中央公会堂 地階 大会議室
(大阪市北区中之島1-1-27)
(1)MEMS技術の微小光学応用
東京大学 生産技術研究所 マイクロメカトロニクス国際研究センター
准教授 年吉 洋 氏
 シリコン半導体マイクロマシニング技術を用いて製作した光ファイバ通信用デバイス、光ファイバ内視鏡、画像プロジェクター等について紹介する。また最近の成果としてロール印刷技術による大面積MEMSについても解説する。

(2)加速する宇宙用MEMSの研究開発発
宇宙航空研究開発機構(JAXA) 宇宙科学研究本部(ISAS)
三田 信 氏
 宇宙用デバイスとしてのMEMSの有用性、将来性などを述べ、各国の宇宙用MEMSに関して簡単に紹介する。また日本の宇宙航空研究開発機構(JAXA)で研究開発されているMEMSデバイスを科学衛星向けデバイス中心に紹介する。

(3)金星気象探査機Planet-C搭載光学センサ
宇宙航空研究開発機構(JAXA) 宇宙科学研究本部(ISAS) PLANET-C ミッション系総括
SPRINT-A/EXCEED ミッションプロジェクトマネージャー 上野 宗孝 氏
 PLANET-C は金星大気の謎を解明するため、JAXAが中心となり開発を進めている純国産の金星気象探査衛星である。本講演ではミッションの概要及び搭載される観測装置及びそのセンサーデバイスについて紹介する。

(4)音叉振動式力センサの特徴とすばる望遠鏡への適用
新光電子株式会社 統括技術部
部長 照沼 孝造 氏
 日本で生まれた音叉振動式力センサは簡単な構造と優れた性能を持ち、精密電子天秤に使用されている。音叉振動式力センサの測定原理、特性及び特徴と応用、すばる望遠鏡への適用についてご紹介する。



第187回研究会
「古くて新しいセラミックスに学ぶ」
 今回は、古くて新しいセラミックスである耐火物、そして地球温暖化防止のための新エネルギーを利用した次世代ビークルを取り上げました。1件目は、あらゆる高温処理プロセスには欠かすことのできない耐火物に関する講演です。2件目は、高温過熱水蒸気によるバイオマスと熱電発電による次世代ビークルの開発に関する講演です。従来から使用されている耐火物、燃料電池や熱電発電用の材料に至るまで、セラミックスの活躍の場はとても広く、学ぶことがたくさんあります。

日時:2009年(平成21年)6月12日(金)14:10~16:50
場所:大阪府商工会館 6階 601号室
(〒541-0054 大阪市中央区南本町4-3-6)
(1)古くて新しい耐火物-概説
品川白煉瓦株式会社 技術研究所
副所長 中村 良介 氏
 耐火物は、高温処理プロセスのためのあらゆる工業窯炉を構築する材料であり、産業の基礎素材である、鉄をはじめとする各種金属、セメント、ガラス等を生産するために不可欠な材料である。しかしながら、一般にはその存在を意識されることは少なく、最近ではセラミストの間でもほとんど研究の対象にはなっていない。耐火物の概要説明とともに最近の動向について紹介する。

(2)高温過熱水蒸気によるバイオマスガス化と熱電発電ビークルへの展開
大阪産業大学 副学長・株式会社オーエスユー 代表取締役
山田 修 氏
 今や日本経済を支える産業となった自動車において,大阪産業大学では、これら自動車の未来を見つめた地球温暖化防止のための新エネルギーによる車の開発に積極的に取り組んできた。21世紀は前例の無い革新的な技術が求められている。車体軽量化のための材料成型技術や、大学独自で開発した燃料電池車、熱電発電ビークルの成果と共に、草木や廃プラの完全ガス化発電による次世代ビークルの開発状況を紹介する。



バイオ関連セラミックス分科会第26回研究会
「ナノマテリアルのバイオ応用 – カーボンナノホーンおよび人工コラーゲン」
 カーボンナノチューブ(CNT)は、1991年に日本で発見された炭素原子の6員環ネットワークにより形成される直径 1~100 nmの物質であり、構造材、センサーやアクチュエイター部品等への用途が期待されています。将来的にはライフサイエンス分野においても、生体適合材料、ドラッグデリバリーシステムやバイオセンサーとしての実現が期待されています。
 また、ここで取り上げる人工コラーゲンは、Pro-Hyp-Glyからなるトリペプチドを重縮合して調製したもので、天然コラーゲンと同様の三重らせん構造を有します。天然コラーゲンに近い特性、化学合成ゆえの安全性から、医療用材料としての応用展開が期待されています。
 当日は、CNTのバリエーションの一つであるカーボンナノホーンに関してドラッグデリバリーシステムへの応用可能性、および人工コラーゲンの医療機器への応用に関する検討結果について、最新の動向をご紹介いただきます。

日時:2009年(平成21年)7月31日(金)14:00~17:00
場所:岩谷産業株式会社 大阪本社 9階 会議室A
(〒541-0053 大阪市中央区本町3丁目4番8号)
(1)カーボンナノホーンのドラッグデリバリー応用可能性
産業技術総合研究所 ナノチューブ応用研究センター
湯田坂 雅子 氏
 カーボンナノホーンは、グラファイトシート一枚からなるチューブ状ナノ物質である。ナノホーンの内部や外壁に薬剤を担持させドラッグデリバリーシステムができるかどうか検討してきたところ、ナノホーンを用いると抗がん剤の抗腫瘍効果が高まるなど、利点があることがわかった。本セミナーではこうしたことに加えて、本格的にナノホーンをドラッグデリバリーとして使用するために解決すべき課題をもあわせて紹介する。

(2)コラーゲン様ポリペプチドの医用材料としての可能性
奈良先端科学技術大学院大学 物質創製科学研究科
谷原 正夫 氏
 コラーゲンに特有のアミノ酸配列Pro-Hyp-Glyに着目して化学的に合成されたポリペプチドは、三重らせん構造、原線維様構造を形成し、コラーゲン様の性質を示すとともに、高い熱安定性と多様な機能性付加という特徴を持つ。また、安全性も高く、工場で大量に生産することも可能である。このコラーゲン様ポリペプチドの医用材料としての可能性について紹介する。



第188回研究会
「高機能セラミックス粉末の合成と応用」
 今回は、ニューセラミックス懇話会第188回研究会と産技研技術セミナーとを共同で開催し、テーマとして、「高機能セラミックス粉末の合成と応用」を取り上げています。セラミックス粉体の付着・凝集性、分散制御による材料の信頼性向上と高機能化、および応用として、美しさを演出する化粧品におけるセラミックス粉体の役割についての講演を予定しています。

日時:2009年(平成21年)8月27日(木)14:00~17:00
場所:ホテル アウィーナ大阪 4階 金剛(東)
(〒543-0031 大阪市天王寺区石ヶ辻町19番12号)
(1)粉体の特性制御による材料の高機能化
大阪大学 接合科学研究所
附属スマートプロセス研究センター長・教授 内藤 牧男 氏
 粉体はユニークな機能を有するがゆえに、あらゆる産業において活用されている。本講演では、まず、粉体の特性を究極に活用するための考え方を説明するとともに、粉体の付着・凝集性のメカニズムとその制御の考え方について解説する。さらに、粉体特性制御の応用事例として、粒子分散制御による材料の信頼性向上への取り組み、粒子複合構造制御による材料の機能性向上に向けた取り組みについて、具体的な事例を挙げて説明する。

(2)化粧美を演出する化粧粉体の開発
株式会社 資生堂 ビューティソリューション開発センター
次長 高田 定樹 氏
 メーキャップ化粧品の中でも化粧のベースとなるファンデーションによる美しい肌作りに重要な3要因は、色彩的要因、質感的要因、形態的要因である。そのそれぞれに適切な補正が化粧に行われることにより美しい化粧肌が得られる。この3要因に対して補正を行うための新しい化粧用粉体の開発を行った。基板粉体の表面に無機化合物をナノサイズで複合化させる表面形態制御技術により粉体の光学特性を制御し新たな機能を発現させた。



第189回研究会、バイオ関連セラミックス分科会 第27回研究会
「ハイドロキシアパタイトを制御した新しい医療用材料」
 生体硬組織の主成分はハイドロキシアパタイトであり、今後の医療用材料には生体中のハイドロキシアパタイトとの反応を制御する技術、あるいはハイドロキシアパタイト自身の構造を高度に制御する技術の必要性がますます大きくなると考えられます。
今回の研究会では、本基盤技術を応用した医療用材料として、オーラルケア全般から、骨セメント、歯質接着材料、再生的修復材料までの最新のトピックスを「岡山大学大学院 医歯薬学総合研究科 吉田靖弘先生」および「株式会社サンギ 中央研究所 齊藤宗輝先生」からご講演頂きます。


日時:2009年(平成21年)10月23日(金)14:00~17:00
場所:(株)島津製作所 関西支社 マルチホール
(大阪市北区芝田1-1-4 阪急ターミナルビル14F)
(1)生体硬組織/材料ナノ界面制御による医用材料の高機能化
岡山大学大学院 医歯薬学総合研究科
吉田 靖弘 氏
 骨や歯といった生体硬組織の治療には、接着材やインプラントなどの材料が不可欠であり、治療の成否は両者の界面に大きく影響される。演者は,硬組織がアパタイトを主成分とすることに着目して、アパタイトへの反応を理工学的ならびに生物学的に捉えることにより新たな界面制御技術を確立し、骨セメント、歯質接着材料、インプラント、DDSなど様々な医用材料の高機能化を図ってきた。本講演では、その取り組みについて紹介する。

(2)オーラルケアにおける水酸アパタイトの応用について
株式会社サンギ 中央研究所
齊藤 宗輝 氏
 ハイドロキシアパタイトは、日本で初めて歯磨剤に応用され(1980年)、その初期う蝕の再石灰化やう蝕菌の吸着作用により、1993年虫歯予防の薬用成分として認可された。現在その露出象牙細管の封鎖性(知覚過敏症予防)、口腔内細菌環境の調整能力(う蝕・歯周病予防)及び臨床における様々なエナメル質修復作用(高速噴射う蝕予防・治療法を含む)など、国内外でそのオーラルケアにおける可能性が研究されている。



ニューセラミックス懇話会 第190回特別研究会
技術・情報の交流と創造展
 ニューセラミックス懇話会では、「第190回研究会」を昨年に引き続き「特別研究会」として開催いたします。定期的な「研究会」とは趣旨が異なり、「特別研究会」は、ニューセラミックス懇話会の会員の皆様から自社製品、技術、研究等の情報を積極的にアピールして頂く情報発信の場、また会員相互の情報交流を密にする場にしたいと考えています。会員の皆様にメリットのある研究会にしようと企画しました。
 景気は回復の兆しを見せつつありますが、先行きは不透明です。このような時にこそ、自らの研究や開発成果を積極的に発信し、様々な分野や価値観をもった人々と交流することにより、新たなビジネスチャンスが生まれるのではないかと考えています。会員の皆様の多数のご参加を心よりお待ち申し上げます。

日時:2009年(平成21年)12月11日(金) 13:45~18:30
場所:たかつガーデン 3階 カトレアおよび2階 コスモス
大阪市天王寺区東高津町7-11

(1)基調講演 東レ(株)における炭素繊維複合材料の技術開発とその応用展開
東レ株式会社 ACM技術部
部長 小田切 信之 氏
 炭素繊維は、軽量で高強度・高弾性率、錆びない、電気を通す、といった特性が認められて、釣り竿、ゴルフシャフトなどスポーツレジャー分野に始まり、今や航空・宇宙分野に大きく拡がりを見せ始めた。ボーイング社の最新型旅客機B787、エアバス社の次世代機A350共に機体構造重量の50%前後が炭素繊維複合材料なろうとしている。自動車もプロペラシャフト、ボンネットなどに、風力発電用の風車の羽根も大型化のためには複合材料が必要とされている。本講演では、当社における技術開発、用途開発の現状と将来展望について紹介する。

(2)会員企業による口頭発表
  • 五鈴精工硝子株式会社の技術と製品
    五鈴精工硝子株式会社の技術と製品 常務取締役 栄西 俊彦 氏
  • エスレックB/Kのご紹介(焼結セラミック用ブチラール樹脂)
    積水化学工業株式会社 滋賀水口工場 樹脂技術課 課長 福井 弘司 氏
  • 材料と表面処理の融合による価値
    安達新産業株式会社 営業開発部 市場開発課 畑 幸男 氏
(3)産・学・官 会員によるポスター・製品発表(26件)
(4)会員交流会



バイオ関連セラミックス分科会第28回研究会
「人工多能性幹細胞(iPS細胞)の最近の動向について」
 2007年11月に京都大学山中教授のヒトiPS細胞創製の衝撃的な発表がなされたのは記憶に残るところです。iPS細胞の重要性として、その細胞の多彩な能力とともに、iPS細胞創製がユニバーサルな技術である点が指摘できます。実際、細胞生物研究をおこなえる施設と知識を有する研究者によりこの創製が可能です。今回、iPS細胞に関する知識を整理するとともに、この細胞の将来展望まで語る会を企画しました。
 また、これら細胞とセラミックスを始めとした材料との今後の接点を深く掘り下げるために、多くの専門分野の方に気軽に参加頂けるように、参加費を特別に 3,000円とさせて頂きました。(分科会会員は従来通り無料です。)皆様の多数の御参加をお待ち致しております。

日時:2010年(平成22年)1月8日(金)14:00~17:00
場所:大阪府商工会館 6階 601号室
(〒541-0054 大阪市中央区南本町4-3-6)
(1)イントロダクション – 間葉系幹細胞とiPS細胞 –
産業技術総合研究所 セルエンジニアリング研究部門
大串 始 氏
 人為的に作製されるiPS細胞は、その能力により幹細胞(Stem cell)としての性質を有するのは明確である。一方、我々体内にも幹細胞(体性幹細胞)が存在する。我々の研究部門では体性幹細胞の一つである間葉系幹細胞を用いた再生医療をおこなうとともに、ヒトiPS細胞も作製している。我々の経験よりとらえた体性幹細胞とiPS細胞について概説する。

(2)ヒトES細胞とiPS細胞の比較からみえてくるもの
国立成育医療センター研究所
阿久津 英憲 氏
 ヒトES/iPS細胞は創薬、疾患メカニズム解明への応用、更には次世代の再生医療材料として注目を集めている。今後のヒト多能性幹細胞を用いた応用展開を見据えるうえで、ES細胞とiPS細胞を比較検討することはきわめて重要である。今回は、ヒトES/iPS細胞の特性を比較検討し基礎知見の整理のもと、その実用化の課題と可能性を考えてみたい。

(3)幹細胞を用いた細胞治療の現状と展望
京都大学 再生医科学研究所
戸口田 淳也 氏
 iPS細胞の出現により、多能性幹細胞を用いた再生医療が現実味を帯びたものとなってきたが、未だ多くの課題が存在していることも事実である。実現化への基盤形成の意義も含めて、我々は現在、体性幹細胞である間葉系幹細胞を用いた、難治性骨疾患である骨壊死病態に対する新規治療法の臨床試験を展開しており、その内容を紹介するとともに、京都大学iPS細胞研究センターにおける研究活動、今後の展望を概説する。