■ 2007年4月から2008年3月までの研究会実施記録 

バイオ関連セラミックス分科会第17回研究会
「新しい医療用材料の開発事例と医療用材料認可の最新動向」
 近年、ヒトの臓器や組織の代替となる人工材料の発展はめざましく、臨床に応用されていますが、人工材料には寿命があるために、半永久的に機能可能な人工材料の開発が望まれます。そこで、人工材料と組織再生医療等を複合化させることにより、安全性の高い革新的な材料の開発が期待されます。また、新規に開発された医用材料を臨床の場で使用するためには、非臨床試験・治験・承認申請の手続き等を経て、医療機器として承認されることが必要であり、医療機器の研究開発者として興味深い話題です。
当日は、安全性の高い移植用の組織体を生体内で自己の生体成分から作成する技術の紹介および医療機器の早期承認を目指すために研究者がおさえるポイントに関して最新の動向をご紹介いただきます。

日時:2007年(平成19年)4月20日(金)14:00〜17:00
場所:岩谷産業(株) 大阪本社 9階 会議室 C
(〒541-0053 大阪市中央区本町3丁目4番8号)
(1)医用生体材料の薬事承認申請について 〜医療機器の開発・研究を行う方々へ〜
東京医科歯科大学 歯科器材・薬品開発センター
園田 秀一 氏
 新規に開発された医用セラミックス等の生体材料を、臨床の現場で使用するには、非臨床試験・治験・承認申請の手続き等の過程を経て、医療機器として承認されることが必要です。新しい医療機器を早く臨床で使える、つまり早期の承認を目指すために、開発段階から承認申請までの各過程でポイントとなる基本的なことについて、開発に従事されている研究者の方々に関係のあることを中心に、わかりやすくお話したいと思います。

(2)体内で成長する移植用組織体の開発
国立循環器病センター研究所
中山泰秀 氏
 人工物を生体内に埋入させることによって起こるカプセル化反応を利用して、生体内において自らの移植用の組織体を自己の生体成分から作成できる生体内組織形成技術を開発している。これは、高い生着性と体内での成長性が期待され、煩雑な生体外での細胞操作などを一切必要としない非常に安全且つ実際的な再生医療技術として広い臨床応用が期待されている。本講演では、血管、心臓弁、ステントを例に開発状況と将来展望について述べる。



第176回研究会(センシング技術応用研究会と合同開催)
日時:2007年(平成19年)5月15日(火)13:30〜16:30
場所:株式会社 村田製作所 本社 2階 ホール
(〒617-8555 京都府長岡京市東神足1-10-1)

(1)透明酸化物の特徴を活かした機能開拓
東京工業大学 フロンティア創造共同研究センター
教授 細野 秀雄 氏
 私たちの研究グループは「透明電子活性」という主題の下で、透明な酸化物という伝統的な物質を使って独自の視点と工夫によって、電子が主役となる機能の発現を狙う研究を行っている。酸素と金属元素が結合した金属酸化物はアルミナやガラスのように透明(粉末にすると白色)で、電気的には殆どが絶縁体である。しかしながら電子構造に立ち戻ると半導体になっても不思議でない物質は少なくない。一見なんの変哲もないありふれた透明な酸化物で、電子機能材料を作ろうという探索的研究で「現代の錬金術」を目指している。わかりやすい成果としては酸化カルシウム(CaO)と酸化アルミニウム(Al2O3)という教科書類で載っている典型的な絶縁体から構成された結晶(12CaO・7Al2O3)を巧く細工を施すと光照射で電子導電体に変換できたことが挙げられる。本講演では最近の成果の中からアモルファス酸化物半導体をチャンネル層に用い、プラスチック基板上に形成した「曲がる高性能透明トランジスタ」と室温・空気中で安定な初めての「エレクトライド(電子がアニオンとして働くイオン結晶)」及び「シリカガラスの中の希土類イオンの配位子制御」を取り上げその背景、経緯と応用について紹介したい。

(2)エレクトロルミネッセンスによる多結晶シリコン太陽電池の機能評価
奈良先端科学技術大学院大学 物質創成科学研究科
教授 冬木 隆 氏
 多結晶シリコン太陽電池に順方向に電流を注入すると、バンド間遷移に伴う赤外光が発生する。その発光強度の空間分布を写真撮影し解析することにより短時間に簡便に結晶の電子物性や素子機能を評価する手法について紹介する。

製品紹介「センサによるパーソナライゼーション」
株式会社 村田製作所 デバイス事業本部センサ事業部
事業部長 宮崎 二郎 氏
 自動車の安全性や快適性、利便性などを向上させるために重要な役割を果たすセンサ。パーソナライゼーションが進む自動車で求められるセンサについて述べると共に、今後の取り組みや目指す方向性について説明する。



第177回研究会

「注目されるセラミックス単結晶の育成と評価」
 
日時:2007年(平成19年)6月22日(金)14:10〜16:50
場所:財団法人 大阪科学技術センター地下1階 B-102
〒550-0004 大阪市西区靭本町1丁目18番4号 TEL 06-6443-5324
(1)Naフラックスを用いたバルクGaN単結晶の育成
大阪大学大学院 工学研究科 電気電子情報工学専攻
教授 森 勇介 氏
 MOCVD法で製膜したGaN薄膜上に独自に開発したNaフラックスを用いた液相エピタキシャル成長(LPE)法により2インチサイズのGaN結晶育成に成功した。これまでNaフラックスLPE法により育成されたGaN結晶の転位密度は、104〜106(cm-2) 程度の範囲だが、これは基板に用いたGaN薄膜結晶と比較して数桁減少している。断面TEMにより、この転位の減少過程を観察した結果、下地結晶中に含ま れていた転位は、LPE成長初期段階(数μm成長)で劇的に減少していることが分かった。これらの現象が自然発生的に起こることが、Na系フラックス法を 用いたLPE法の特徴であり、高品質GaN結晶の育成が可能となる理由と考えられる。また、炭素元素添加により、基板以外での核発生抑制や無極性面が広く 残る成長が可能になることを見出している。

(2)希土類オキソボレート系新規圧電単結晶の育成と評価
奈良先端科学技術大学院大学 物質創成科学研究科
助教 西田 貴司 氏
 発展著しい情報通信技術を背景としてより高機能な素子実現のために新材料の探索が活発に続けられている。希土類オキソボ レート系結晶は1990年代に見出された新しい単結晶材料である。この材料系の育成と特性について紹介する。また、新しい材料系においては材料定数を明ら かにしなければならないが、測定での問題点、手法の開発など、研究の経緯も交えて解説する。



バイオ関連セラミックス分科会第18回研究会
「身体に優しい低侵襲性治療技術」
 バイオ関連セラミックスを代表するものに人工骨があります。人工骨は骨の代替材料として機能しますが、元々骨の領域では自家骨移植が行われており、これを軽減させる、すなわち優れた人工骨は自家骨を採骨しない低侵襲化をもたらすものです。
 一方、外科領域の一部の手術ではさらに低侵襲な処置、治療がなされており、これは内視鏡とその周辺機器が必要になります。「見る」から「治す」、胃カメラと呼ばれた軟性チューブの先端に超小型フィルムを内蔵したものから、ファイバーの開発で直接体内を観察できるようになり、その後病変を治療するための様々な処置具の開発により、内視鏡治療は一気に加速されました。また、これらの機器類には沢山の材料技術が応用されていることもあります。開腹手術を行っていた患者さんの治療が大幅に低侵襲化され、診断機器による早期発見、早期治療と合わせて、多くの患者さんの命と手術時や術後の苦痛を救うことができるようになり、QOLの向上に寄与しています。
 当日は、内視鏡の機器開発の歴史から最近の技術紹介、さらに実際の臨床での胎児外科治療の例を御紹介いただきます。

日時:2007年(平成19年)6月22日(金)14:00〜16:50
場所:(財)大阪科学技術センター 地下1階 B-101
(〒550-0004 大阪市西区靭本町1丁目18番4号)
(1)内視鏡医学と最新技術〜診断から治療まで〜
オリンパスメディカルシステムズ株式会社
長瀬 徹 氏
 医療現場における内視鏡の活用は診断にとどまらず、病変の切開・凝固・止血など、さまざまな処置にも活用されている。また適用領域も消化管の内腔にとどまらず、近年では外科手術の領域でも内視鏡技術が積極的に応用されてきている。特にこの領域では、外科処置のための各種の内視鏡関連機器が開発され、これらの登場によって外科手術の低侵襲化が実現されている。診断から治療まで、機器開発の歴史から最新の技術までを紹介する。

(2)胎児外科治療の現状と将来
国立成育医療センター 特殊診療部
千葉 敏雄 氏
 子宮内胎児の病態は、分娩までの間に時に不可逆的な子宮内進行・増悪を呈する。胎児・胎盤外科手術は、このようなハイリスク児に子宮内で外科的処置を行い、その出生後の長期的治療成績向上を目指すものである。発生学の知見を背景とするこの外科的治療を、一層効率的・安全に施行するには、その支援技術である"新しい目(画像技術)と手(手術機器)"の開発が求められる。同時に、この手術で派生する倫理的諸問題についての検討も不可欠である。今回は、その現状と将来につき述べてみたい。



第178回研究会
「セラミックス多孔体の機能展開」
 セラミックス多孔体は、多孔体の特性である、軽量、断熱性、吸音性、物質の吸脱着性と、セラミックスの特性である耐熱性、 耐薬品性を併せ持ち、これまで触媒担体、断熱材、防音材等の産業資材として利用されてきました。近年、多孔体の気孔制御(気孔形状、気孔径とその分布)と 高強度化の実現によって、新たな機能分野への展開が可能となってまいりました。その代表的な分野がディーゼル自動車用粒子除去フィルター(DPF)であ り、セラミックス分離膜であります。
 そこで、本研究会ではこれら分野のセラミック多孔体を採り上げ、最新の技術動向と将来展望についてわかりやすくご説明いただきます。

日時:2007年(平成19年)11月1日(木)14:00〜17:00
場所:岩谷産業(株) 大阪本社 9階 会議室 A
(〒541-0053 大阪市中央区本町3丁目4番8号)
(1)ディーゼル自動車事業への展開を実現したセラミックス多孔質体技術
イビデン株式会社 技術開発本部
副本部長 大野 一茂 氏
 ディーゼル車は低燃費性という優れた特徴を有し、地球温暖化の原因となるCO2排出量が少ないた め、欧州では新車のシェアを大幅に伸ばしている。その要因の一つにDPFの実用化が挙げられる。DPFが提案されてから実用化に至るまで20年間の長い歳 月が過ぎた。実用に至るにあたり、要求に対して多孔質体を評価する手法と要求に対してSiCの持つ特性を最大限発揮できるように工夫した多孔質体の技術を 体系的に述べる。

(2)セラミック分離膜のミクロ領域への新展開
日本ガイシ株式会社 研究開発本部 商品開発センター NCMプロジェクト
マネージャー 富田 俊弘 氏
 セラミックを用いた分離技術は,セラミック多孔体を膜状に形成したろ過フィルターとして実用化されている。セラミック膜は 有機高分子膜と比較して,高温高圧環境や有機溶剤,酸アルカリ溶液に強いため適用範囲が広く,ミクロ領域では蒸留,深冷分離,吸着分離などの既存の分離方 法に比べ省エネと言われ近年注目されている。本発表では,既存のセラミック膜からミクロ領域を対象とした膜分離技術までをわかりやすく紹介する。


第179回研究会
バイオ関連セラミックス分科会第20回研究会

「市場ニーズに応える開発事例」
 今回は、ニューセラミックス懇話会(本体)と同バイオ関連セラミックス分科会の共催の合同研究会で、分科会が企画を担当しました。今回の二つの演題は一見畑違いのように見えますが、開発コンセプトを明確にして短期間に実用に至らしめる過程には、分野に関係なく共通するものがあるようです。懇話会(本体)会員および分科会会員の皆様には共通的にご参考になるものと思います。

日時:2007年(平成19年)11月30日(金)14:00〜17:00
場所:岩谷産業(株) 大阪本社 9階 会議室 C
(〒541-0053 大阪市中央区本町3丁目4番8号)
(1)UBMスパッタ法によるDLC膜の形成、特性と工業的応用例
株式会社 神戸製鋼所 高機能商品部 技術室
赤理 孝一郎 氏
 DLC膜は多様なプロセスで形成されますが、従来のガスを原料としたプロセスに対し、固体カーボンを原料としたPVDプロセスによるDLC膜が近年注目されています。本講演ではPVDプロセスの代表的な手法であるUBMスパッタ法によるDLC膜の形成法と形成される多様な高機能DLC膜の特性および医療分野を含めた工業的応用例について紹介します。

(2)新しい気管挿管支援装置(エアウェイスコープ)の開発から市販まで
慈泉会相澤病院 脳血管内治療センター
小山 淳一 氏
 2006年7月(株)PENTAXから発売された新しい気管挿管装置"エアウェイスコープ"は主に麻酔科、救急部で用いられ、挿管に関わるリスク回避の目的で病院内各病棟にも配置され始めています。さて、このエアウェイスコープは3年半という短い開発期間で市販に至りました。当初のコンセプトが臨床を見通した現実的なものだったこと、数度の改良時にも常に開発方向性をはっきりさせていた事、意欲ある有能な方と出会えた事がその理由だと思います。新しい装置を頭に描いてから、エアウェイスコープが市販されるまでを振り返ります。


ニューセラミックス懇話会 第180回特別研究会
技術・情報の交流と創造展
 ニューセラミックス懇話会では、「第180回研究会」を「特別研究会」として開催することになりました。これまで開催してきました通常の「研究会」とその趣旨が少し異なり、ニューセラミックス懇話会の会員の皆様から自社製品、技術、研究等の情報を積極的にアピールして頂く情報発信の場、また会員相互の情報交流を密にする場にしたいと考えています。会員の皆様によりメリットのある研究会にしようと企画しました。キャッチアップ型からフロントランナー型の時代になり、新しいアイデアや技術を創造するためには、自らの研究や開発成果を従来以上に積極的に発信し、様々な分野や価値観をもった人々と交流することが重要ではないかと考えています。

日時:2008年(平成20年)2月1日(金) 13:45〜18:30
場所:たかつガーデン 3階 カトレアおよび2階 コスモス
大阪市天王寺区東高津町7-11

(1)基調講演 「0」からのセラミックス事業展開
株式会社クボタ 材料研究部 土田 二朗 氏
 セラミックスに関する経験・技術・技術者・設備インフラなどがない情況から、どの様なやり方で「事業展開」を進めたかに関して、弊社の例を紹介する。1980年頃に開始した研究開発から、その後の商品展開に至る過程では、それぞれ会社のDNAが大きく影響したと考えられる。その結果として「ティーザクス(チタン酸化合物)」、「KN-101(窒化珪素セラミックス)」、「TB-901(ホウ化チタンセラミックス)」などを市場に提供している。講演では、開発初期からの基本的な考え方・経緯を報告し、合わせて各セラミックスの紹介をさせて頂く。

(2)会員企業による口頭発表
・高周波誘電体材料の誘電損失「Ba(Mg1/3Ta2/3)O3を例にして」   日立金属株式会社 島田 武司 氏
・700℃耐熱ガラス開発とガラス封入サーミスタへの応用   日本電気硝子株式会社 齋藤 和也 氏
・低温成形   森六株式会社 中西 康雄 氏/岩谷瓦斯株式会社 樋内 新助 氏
・リン酸カルシウム材料の開発   太平化学産業株式会社 研究製品開発部 中川 草平 氏

(3)産・学・官 会員によるポスター・製品発表(26件)

(4)会員交流会




バイオ関連セラミックス分科会第21回研究会
「医療機器に関する国際標準化」
 国内のみならず海外における製品化を考える場合、「国際標準化」の獲得がグローバルな市場における優位性の確保に不可欠な要素です。特に、技術の実用化・製品化以前の段階から標準化を考慮することが戦略的に重要なポイントとなっています。また、国内市場に目を向けても、医療機器に関しては海外製品が日本製品をはるかに上回っています。このような状況を打破するためにも標準化戦略が必須です。今回、国際標準化活動を精力的におこなっている3名の方に講演をお願いし、国際標準化の制度や標準化提案についてのノウハウを語っていただく事を企画いたしました。

日時:2008年(平成20年)3月17日(金)14:00〜17:00
場所:株式会社島津製作所 関西支社 マルチホール 阪急ターミナルビル14F
(大阪市北区芝田1-1-4)
(1)外科用インプラント材における国際標準化動向
京都大学 再生医科学研究所
堤 定実 氏
 インプラントなど医療機器材料に関わる規格、基準を定めている国際的な標準化団体の中で最も代表的なものは、国際標準化機構(ISO)と米国材料試験協会(ASTM)であろう。筆者はISO/TC150(外科用インプラント専門委員会)の国内検討委員会の委員長として当委員会の活動を報告することが責務であり、同時に標準化への理解と支援を要請したい。

(2)再生医療評価技術に関する国際標準化提案
独立行政法人 産業技術総合研究所 セルエンジニアリング研究部門
廣瀬 志弘 氏
 再生医療の実用化に向け、細胞ならびに再生組織の評価技術の標準化を推進することの意義は大きい。しかし、本邦においては、金属やセラミックス系インプラント材料の評価法について、JIS化が一部進行しているが、再生医療関連の材料や技術の評価法については、進行していない。我々は、骨の再生医療の早期実用化を目指し、本邦発の再生評価技術の標準化を推進している。本研究会では、再生培養骨組織の再生医療への早期実用化への取り組みを例に、再生医療関連の国際標準化動向を概説する。

(3)市販まで企業の国際標準化の取り組み 〜 国産医療用チタン合金の標準化への道筋 〜
日本メディカルマテリアル株式会社 山脇 昇 氏
 現在、幅広く使用されているバイオマテリアルは、そのほとんどが海外生まれといっても過言ではない。日本の研究機関や企業のバイオマテリアルの開発技術力のレベルは海外以上のものがありながら後塵を拝してきたその大きな理由の一つに、標準化を軽視してきたことが挙げられる。ここでは、ISO/TC150 国際規格回答原案調査作成事業委員会が2003年から取り組んできた国産医療用チタン合金の国際標準化に焦点を当てて紹介したい。